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【特別鼎談】「ULTRAMAN」10周年を迎えて──大岡新一×清水栄一×下口智裕

2021.11.05

COLUMN

 

10周年を迎えたヒーローズ&「ULTRAMAN」!

 

2011年の11月、「月刊ヒーローズ」の創刊とともに始まった『ULTRAMAN』は、この2021年11月1日に連載10周年を迎えた。現在も「コミプレ」で連載中の本編は112話を越え、単行本も17巻を数える大ヒットを記録。Netflixでのアニメはシーズン2が来春公開予定だ。ゲーム、スピンオフ小説、フィギュアと広がり続け、今やビッグコンテンツの仲間入りをした本作だが、その誕生は必ずしも平穏なものではなかったという。

「等身大」で「装甲スーツ」をまとった新しい『ULTRAMAN』は、連載開始より多くの漫画ファン・特撮ファンの話題をさらい魅了していったが、一方で既存の「ウルトラマン観」を大きく逸脱するがゆえに、その実現には当初、様々なハードルがあった。

しかし、作者である清水栄一先生・下口智裕先生がある人物と会ったことによってその「難プロジェクト」はスムースに流れ始める。

その人物とは、円谷プロダクションの大岡新一社長(当時、現・顧問)。

昭和のウルトラマンシリーズではキャメラマンとして、平成シリーズでは特技監督や製作統括、ニュージェネレーションでは監修を務めた特撮界のレジェンド・クリエイターだ。

『ULTRAMAN』の快進撃は息の詰まりそうなミーティングの後、大岡氏の提案で焼肉屋に場所を変え、3人のクリエイターで「ウルトラマンはABCどのタイプがいいか」など、ざっくばらんに激論を交わし、意気投合したところから始まる──。

▲写真左より、下口智裕先生、大岡新一氏、清水栄一先生。2018年6月、大岡さんへプレゼントされた直筆原画とともに。

ここでは、そんな『ULTRAMAN』10周年を振り返る鼎談をお届けする。

 

「この物語はどこまで行くの?」

 

▲円谷プロダクション・大岡新一顧問。

大岡新一(以下、大岡) 僕は『ULTRAMAN』の企画が始まった時、現場にはそれほど関わっていなくて、担当者に任せていたんだよね。だから、初めてお二人と会った時には、話はけっこう進んでいて、もうすぐ2巻目が出るというタイミングだった。そこで、僕は「この物語はどこまで行くつもりなのか」と聞いたんですよ。当時の円谷プロの担当や編集部に聞いてもイマイチピンと来ないから、じゃあ直接作家に聞いたほうがいいと思って。

下口智裕(以下、下口) 『ULTRAMAN』を初めて読まれた時、背丈が等身大で「なんだこの企画」って思われたんじゃないですか?

大岡 正直に言うと、最初はそういう印象もあった。世界観的にも、随分とデリケートなところに踏み込んできているなと。それで初めて会った日に、焼肉屋で食事しながら「この話はどこまでいくの」ってお二人に聞いた。

清水栄一(以下、清水) 初めて会った時の状況はすごく悪かったですよね(笑)。連載開始時にトラブルがいくつか重なり、そのタイミングでしたから。息が詰まりそうなミーティングがあって、その後、みんなで焼肉屋に行ったんですよね。

下口 その時に「社長として、社内で説明しなきゃいけないから、ちゃんと把握したいんです」とおっしゃられたのはよく覚えています。

大岡 当時はまだジャックが出てない頃で、「帰りマン(『帰ってきたウルトラマン』)までは出します。その先はよくわかりません」って、はぐらかされたんだよね。これは確信犯だなと(笑)。

清水 その時の会話で、初代ウルトラマンは「Aタイプ」が僕は好きなんですが、大岡さんは「Cタイプが完成形だ」とおっしゃって“ウルトラ論”を交わしたのを覚えています。今となっては僕も「Cタイプ」の素晴らしさがわかったんですけど(笑)。

大岡 それは個人の嗜好の問題だからね。「Bタイプ」を好きな人もいるでしょう。

下口 ほかにも、「ウルトラ兄弟」(という設定)についても激論になっていましたよね(笑)。まあ、結局『ULTRAMAN』に「ウルトラ兄弟」は全員出ることになるのですが。

大岡 「ウルトラ兄弟」について持論を持つ人が、全く新しい「ウルトラ兄弟」を描くということ自体が、新しい価値観を生んでくれているんじゃないかと思いますよ。

下口 本当にのびのび、世界観をつなげて描かせていただいてますけど……。

大岡 でも、結局「創り手」というのは、自由度がないと発想できないと思うんだよね。縛るならそんなコンテンツは作らなくていいと僕は思う。紳士協定じゃないけど、「こことここはちゃんとしてね、そこさえ押さえれば、あとはご自由に」というのが大事なんだと思う。

清水 大岡さんの懐の深さですね。

下口 最初の頃は、円谷プロさんは僕らにとってあくまで『ウルトラマン』の権利元で、チェックを受けたり、資料をもらったりという関係性だったのが、直接大岡さんとお会いしたことによっていろいろな問題も一気に解決したし、一緒に作品づくりをする仲間だという意識も生まれました。連載を開始してから、初めて自分たちの味方がいるんだと思ったんです。話を聞いてくれて、「自由にやっていいよ」と言ってくださる。本当にありがたかったです。

 

『ULTRAMAN』は外部の人だから作れた作品

 

▲2011年11月1日に発刊となった「月刊ヒーローズ」の創刊号。

大岡 『ULTRAMAN』は「月刊ヒーローズ」の創刊から始まったんだよね?

下口 一番初めは、ヒーローズ編集部から「雑誌創刊にあたり『ウルトラマン』の漫画を描きませんか?」というオファーをいただいたことなんです。今のように「等身大」でもなく、ウルトラマンスーツも着ていない、巨大ヒーローとしての「ウルトラマン」の漫画ですね。でもそのオファーを最初、清水は断ったんです。

大岡 え、そうなの!?

清水 実はそうなんです。「特撮」を漫画で描くというのは、やはり表現に限界があると思って。実写で観せるからこその「良さ」が漫画では全部消えてしまう。もちろん、漫画だとセットを組む必要もないし、カメラをどこにでも置ける良さはあるんですが、でも僕が好きだった「ウルトラマン」の質感とか巨大感を、漫画で再現できるとは思えなかったんです。それで、「ウルトラマン」を漫画で描くのはリスクが大き過ぎるなと思って、断ったんです。

下口 清水からその説明を受けて僕も納得しました。もともと彼に「ウルトラマン」への愛があったのを知っているし、即座に受けられるものでもないなと。でも、それからしばらくして、再度編集部からオファーがあったと聞いて、「そうなの、けっこう押してくるね」と話したら、清水が「受けようと思う」といきなり言い出して。「え? 受けるの!?」って驚いたんです。というか、清水はすでに編集部に「受ける」と返事をしていた(笑)。最初は受ける気持ちがなかった清水が、僕に相談もなくその場で直感的に「受ける」と言うほどだから、何かあったんだろうと思って詳細を聞いてみると、編集部から「等身大でウルトラマンをやりませんか?」って言われたみたいなんですね。

清水 意味がわからないし、誰がやっても「そんなのウルトラマンじゃない」と言われるに決まってる。でも、そんな「とんでもない企画」を他の誰かに取られるのはシャクだなと。どうせ怒られるのであれば、自分たちで新しい「ウルトラマン」を作りたいという気持ちがあったんです。

大岡 そんな経緯があったんだ。その時点では円谷プロはまだそこまで内容には関与していなくて、ヒーローズ編集部内で企画が進んでいたのかな。たぶん、円谷プロが版元の立場で、主導的にやろうとしたら、この『ULTRAMAN』は生まれていなかったと思う。自社の「ウルトラマン」が持つ「特撮の巨大なヒーロー」というイメージを、まさか「等身大でやろう」という発想はまず持ち得なかっただろうから。何か物事が変化する時には、外的な要素、外部からの刺激が必要なんだよね。それがたまたまヒーローズであり、お二人の優秀な作家だったってことなんだよ。だから結果的に立ち上げの段階で円谷プロが関わらなくて良かった。

下口 最初から円谷プロが主導していたら『ULTRAMAN』は生まれなかったんですね。

大岡 連載が始まる前に「どう思う」って聞かれていたら、「いやあ、乗れませんね」と答えてたかもしれない。というのも、1970年代にウルトラマンのアニメを作ったことがあるでしょう。それは新しい挑戦ではあったけど、当時のアニメ表現ではどうしても怪獣の重量感が特撮とは違うし、商業的な部分も含めて、ウルトラマンをアニメや漫画でやるのは難しいなという印象が強く残った。だからこの作品も企画の発端から円谷プロが参加していたらGOサインは出さなかったかもしれないね。そう考えると結果的には良かったんじゃない?(笑)

 

最初は「警察官」の話だった?

 

▲「マリー」スーツ。

下口 ちなみに『ULTRAMAN』の連載前、最初の企画段階ではまったく違う世界観だったんです。

清水 最初に提出したプロットでは、主人公は警察官で今とは違うオリジナルストーリーでした。それから紆余曲折があって、初代「ウルトラマン」の世界観につながる話になったんですが……。

大岡 だいぶ変わったね(笑)。今、『ULTRAMAN』の本編に出てきているのは「ウルトラマン」から始まって、「レオ」「アストラ」までだっけ?

下口 そうですね。あと「マリー」も出ましたけど……。

大岡 元の特撮作品ではそれぞれ違っている世界観の話を、『ULTRAMAN』では大きな流れにまとめてやっているでしょう? 昔は作品ごとにプロデューサーが各々ウルトラマンシリーズの世界をつくっていた。『ミラーマン』とか『ファイヤーマン』とか、ウルトラマンシリーズ以外の特撮モノも含めてね。でも僕らは、一見バラバラに見える作品でも「円谷プロの世界観の根っこは一つ」と思っていて、すべてが繋がったような、何か新しい展開ができないかを夢想していたのは事実なの。それをまとめ上げるまでには至らなかったけど。でも、あなたたちが違う形でそれを実現してくれたと思っていて。本当にお二人のことは尊敬していますよ。

下口 いえいえ。僕らにとっても本当に大岡さんの存在が大きくて。続けていくうちにだんだん連携もとれてきて、のびのびと描かせていただいて、アニメ化もされて。

大岡 社長をしていた僕が言うのもなんだけど、ウルトラマンシリーズの中にも当然、作品ごとに人気やクオリティの差がある。もちろん、100パーセント完璧な作品なんかないし、逆に欠点だらけの作品でも魅力を感じるファンもいる。良いところがあるからこそ、欠点も見えるわけで。社長の時に、それが見えてきたのも事実なのよ。円谷プロの持っているコンテンツの良いところと悪いところ、それを今回の『ULTRAMAN』の中で、外部の人がいろんな意味で形にしてくれたと思っていて。

下口 外部だからという意味では、清水は「ウルトラマン」が大好きだし、だからこそ「ウルトラマン」の壁を壊そうという気持ちがあったんだと思うんですよね。

大岡 それこそ外部の人じゃなきゃできないよね。

下口 ファンからの反発もあるだろうし、円谷プロから見たら「うーん?」と思うことも多かったでしょうけど、絶対的なリスペクトがあるから、たぶん続けられているんだろうなと思ってます。

 

現場のキャメラマンと社長業の違い

 

▲オフでの一コマ。久々にカメラを回す大岡氏。

大岡 『ULTRAMAN』のコミックスを改めて読んだけど、絵も話の展開も上手いね、本当に。どこからこの発想が生まれるのか。どこからこの才能がほとばしってくるのか。たぶん〆切に追われるというのは、悲しい職業のサガだと思うけど。

下口 「〆切」という言葉を聞くとピリッと来ますけど(笑)。

大岡 描き手としては、まだ出したくない、まだ未完成なのに、〆切で出さないといけないこともあると思うんだよね。でも、出さざるを得ない。それも含めて作品だからね。

下口 そうですね。

大岡 それでも物語に破綻をきたさず、作品のクオリティを維持するって大変なことだよね。作家というのはしんどいけど、素晴らしい職業だと思う。僕は長年特撮の現場でキャメラマンとしてやってきたけど、何の因果か社長になってしまった。社長業って、良いか悪いかを判断して、ハンコを押すか押さないかを判断しなければいけないんだけど、結論や結果がその日とか翌日とかには出ない。その判断が合っていたのか間違っていたのかがわかるのは、数ヶ月とか数年後だったりするんだよね。でも、撮影現場にいた時はそうじゃなくて、現場では監督やキャメラマンが「OK」を出せばそれは「OK」なのよ。時には、一時間後に「しまったな、あれはこうすればよかったな」と思ったり、完成した後で「あそこでOKしちゃダメだったな」というのもあるけど、その場で「OK」にしたことは、責任上は「OK」なの。そこは、クリエイターとビジネスの世界の違いでもあるよね。

下口 まったく別物ですよね。ちなみに『ULTRAMAN』の監修の時は、特撮の現場で仕事をしていた、クリエイターとしての経験が生かされていたんでしょうか?

大岡 確かにそういう判断基準もあったけれど、(円谷プロの社長として)監修をしていた当時は別の人格もあった。「円谷プロの作品として、これはどうなんだろうか」という見方と、個人的なキャメラマンとしての見方と。でも、『ULTRAMAN』に具体的に関わるようになった時にはすでに企画は進んでいて、単に「良い」「悪い」という次元を超えていたからね。まずは受け入れるところから入ったから。だから、キャメラマンとしての純粋な視点では見られなかったし、円谷プロの責任者という立場で見るという、複雑な視点があったんじゃないかな。

 

現場に口出しはできない

 

大岡 そういえば特撮の撮影現場にも一緒に行ったっけ?

下口 そうですね。取材が終わって食事をした際に、清水が「大岡さんはまたキャメラマンとして現場に入らないんですか」みたいなこと言い出して。そしたら、周りにいた社員の方がザワザワしはじめて(笑)。

大岡 まあ、僕が現場に入っちゃうとそこで終わらなくなっちゃう。現場だって話を聞かないといけなくなるし。時間ばかりかかって、全体としてのメリットを考えるとね。照明とか、僕はそれを生業にしていたから口を出したくなるんだけどね(笑)。

清水 僕からしたら大岡さんはレジェンドですから。

大岡 最近、口がうまくなってきたねぇ。額面通り受け取りますよ。(笑)。

清水 これは本音ですよ!

下口 僕たちのリスペクトが伝わらないのは悲しいです!

大岡 ハハハ! 僕も若い優秀な作家二人と話せて、こんな光栄なことはありません(笑)。

下口 それに、この撮影現場には、大岡さんのクルマで僕たち二人を乗せて行ってくださったんです。その時に「漫画描くのって大変?」って聞かれて、清水が「辛いことしかないです」と言ったら「そうだよね」としみじみとお話しましたよね。普通は「漫画家ってやりたいことを仕事にできていいよねえ」とか言われることが多いのですが。

大岡 僕も正直な男だからねえ(笑)。

下口 そういえば最初の焼き肉屋でも、「大岡さんって、また撮ったりしないんですか?」って聞いたことがありましたね。

大岡 「やるよ」って言ったと思う。

下口 その時も周囲が止めてましたね(笑)。

大岡 本当にやる気は満々だったのよ。でも、実際に社長を退いて時間ができたけど、現場に戻るというのはなかなか難しいね。気持ちはあっても、どこかで周囲に迷惑をかけてしまうなとか。自分で企画からお金集めまでやるならいいんだろうけど、そうじゃないとワガママみたいに取られかねないし、キャメラマンとして、今の円谷プロの制作スケジュールをこなしていく自信はない。それくらいハードなのよ。だけど今のウルトラマンシリーズを観てもクオリティが下がっていないから、現場の人たちは偉いなあって思ってます。

下口 そうなんですね、でも、ぜひカメラを回してる姿をもう一度見たいですね。

 

『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』ゲスト出演について

 

▲ Amazonオリジナルで配信中の『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』での一コマ。エキストラとして清水栄一×下口智裕先生も出演した。

大岡 お二人とはもう長い付き合いだけど、たまにおかしなことを言い出すよね。「特撮に出たい」とかさ。普通の作家はそんなこと言わないよね。

下口 いや、「出たい」と言ったわけじゃないですよ。いろんな話が曲がって曲がって、いつの間にか『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』に出るという話になってしまっただけなんです。清水が『オーブ』に参加したいって言ってたのは違う意味で……。

清水 僕は「何でもいいから『オーブ』に関わりたいんです」って言ったんです。怪獣とかメカのデザインとか。

大岡 そうだっけ?

清水 そっちのニュアンスで言ったんですが、そうしたら大岡さんが、「『オーブ』に出る?」って言われたんで、「じゃあ、出ます」と。

下口 そこはなんで「出ます」なの。話が全然違うじゃん(笑)。

大岡 そうだよね。でも、あれはなかなかおもしろかったなぁ(笑)。

下口 貴重な経験をさせていただきました。

大岡 二人の緊張感がね。

▲撮影現場でのワンカット。本番直前でメイク直し中の両先生、極度な緊張の中での微妙な笑みが印象的。

下口 本物の現場にいたら当然ですよ。

清水 でもあれ以降出演オファーがないんですよ。円谷プロさんから。

大岡 あるわけないじゃない!(笑)

 

限りなき『ウルトラマン80』への愛

 

下口 そうそう、スマホケースに僕たちのイラストを入れてくれているんですね。

大岡 古希のお祝いに、僕が「80スーツ」を着ているイラスト色紙をプレゼントしてくれたんだよね。『ULTRAMAN』には「ウルトラマン80」は出ないらしいので、僕だけにということで。

▲古希のお祝いにプレゼントされたサイン色紙には「80スーツ」を纏った大岡氏の姿が。

下口 確か、漫画に「80」が出るかどうかという話になったときに、大岡さんが「80」への思い入れが深くて、「(漫画本編に出ないなら)僕以外にスーツを着させちゃダメだよ」とおっしゃったんです。それで、大岡さんの「80」を描きたいなと思っていたんですよ。

大岡 『ウルトラマン80』は特に思い入れの強い作品なの。僕は『帰ってきたウルトラマン』では撮影助手として全ての回に、その後も撮影監督や監修などで多くのシリーズに関わったんだけど、特にキャメラマンとして深く関わったのが『80』でね。『80』は昭和の特撮作品としてはクオリティが高いと僕は今でも思ってるんだけど。

清水 めちゃくちゃ高いですよ。

大岡 だから、それなりの思い入れがあって、もちろん僕だけじゃなくて、デザイナーの山口修さんとかと一緒に結構がんばって作ったのよ。そういう意味での思い入れもあるし、『80』の主人公のヒーロー像がなんとなくヒーローっぽくなくて、「かっこいい」とはいえないんだけど、それがまた愛おしい。昭和の作品の中では、他とはちょっと違うと思っている。

下口 特撮シーンは今でもビックリするくらいレベルが高いですね。

大岡 けっこうなもんだと思うよ。

下口 『ULTRAMAN』の打ち合わせで大岡さんと話すときに、初代『ウルトラマン』とか、『ウルトラセブン』とか、『帰ってきたウルトラマン』の話をひとしきりするんですが、必ず最後に大岡さんは「でも……『ウルトラマン80』もいいんだよ」っておっしゃるんです(笑)。

▲ボロボロになるまで使い込まれたケース(右)と、二代目のケース(左)。特注品。

大岡 そうだっけ?(笑)

下口 やっぱり『80』への愛はすごい(笑)。

清水 僕も『80』大好きなんで。本当のことを言えば『ULTRAMAN』にも「80」を出したかったんです。でも設定上どうしても難しくて。一応、裏設定として、実は進次郎が通っている高校の先生は……というのがあって、ウルトラマンにならなかった“彼”が担任をしているという……。

大岡 出てくるの? 初範(ショパン)先生。

清水 とりあえずまだ出てきてないです(笑)。

下口 最近は学校のシーン自体が少ないからね。

 

「足ナメショット」の謎

 

▲『ULTRAMAN』コミックス1巻より。

大岡 学校といえば、女の子の足のバックショットを描いたような画が多い気がするのだけど。

下口 絵に関して担当は僕ですけど、別にそういう趣味があるからではなくて(笑)。顔のアップの連続とか、直接的な構図を避けるために、いろんなアングルや何かをナメる(被写体の手前に何か別の物を置いて奥行きを演出する)構図を試したり……ですね。足越しとか、肩越しの構図は、特撮からの影響もあるかもしれません。

大岡 僕はもしかして、『ミラーマン』の特撮監督の矢島信男さんがやった「足ナメショット」の影響を受けているのかと思って。怪獣からズームバックすると、ミラーマンの両足がレンズ前にいるという、「矢島ショット」の影響かなと。

▲『ULTRAMAN』コミックス1巻より。

下口 う〜ん、もしかしたらその影響だったかも知れません(笑)。でも漫画の場合、映像と違ってコマの大きさがマチマチなので、横長のコマの時には足しか入らないことがあるんですね。だから、必要に応じてそういう構図にした感じですかね。それと構図で言うと、等身大のキャラクターの場合も、巨大な異星人が出てきた場合でも、人間の目線でありえないところにカメラは置かないようにしています。構図を決める時には、なるべく「カメラを置く」ということは意識しますね。

大岡 かつて円谷英二監督が東宝で『ゴジラ』を撮影されたり、円谷プロで『ウルトラQ』を撮った時にはモノクロの「35mmフィルム」を使ってたんだけど、『ウルトラマン』からはカラーの「16mmフィルム」を使うようになった。この35mmフィルムと16mmフィルムの大きな差は、もちろん画質の差はあるんだけど、被写界深度、ピントなの。35mmフィルムだとそういう「ナメもの(建物をナメたり、足をナメたり)」をすると、被写界深度が浅すぎてボケボケになり使い物にならなかった。劇場用だとライトもあるし、撮れるんだけど、テレビだとそうはいかない。テレビは予算もないし、ライトもそう使えないし。ところが16mmフィルムだと、ああいう「ナメもの」も被写界深度が深いからそんなにボケない。ピントが合うから画面としては成立するわけ。だからあのまま35mmフィルムで作っていたら、ウルトラマンシリーズのような映像文化は根付かなかったかもしれない。16mmフィルムはコストや軽便性だけでなく、クオリティ的にもテレビにはいいだろう、と。そういうところからスタートしているから、画作りにもすごく影響を与えているわけなんだよね。

下口 なるほど。僕は清水の影響で特撮を観るようになったのですが、漫画家として特撮に影響を受けているところはかなりあると思いますね。

 

商業性と作家性を馴染ませるのが力量

 

▲『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』など数々の脚本を手掛けた故・金城哲夫氏。

大岡 こういう話は本当はお酒を飲みながらしたいよね。くだけた場のちょっとした会話から次の発想が生まれると思うんだけど。一番最初の『ウルトラマン』だって、金城哲夫さんをはじめとする当時の脚本家が、撮影現場の人たちと「特撮をどう作ったらいいか」っていうのを酒場でよく話していた。当時の脚本家陣は、特撮でどこまで描けるか、どんなことが表現可能かなんて全然わからないわけだから。脚本では「ウルトラマンと怪獣が戦う」としか書けない。あとは撮影現場におまかせなわけ。それで酒場で飲みながら話をしていると、アイデアが出てきて、脚本に書いてみる。現場もそれをやってみる。そうしたキャッチボールがあって、出来上がった画が、それ以降の脚本に反映される、といったことがあったそうなんだよね。だから、酒場の会話もけっして無駄話ではなかった。

下口 自分たちもけっこう同じような感じで、今はスカイプを通してですが4〜5時間雑談していて、その雑談から作品の方向性が決まったりしています。だらだら話すっていうのも大事ですよね。

大岡 しかし、2人で20年も続けてるわけでしょう? よく飽きないね(笑)。

清水 確かにそうなんですよ。不思議と飽きない。

大岡 なかなか得難いパートナーだね。

下口 それはお互いに全然タイプが違うからだと思います。たとえば僕が「マーチャンダイズ的にこうしようよ」と言ったら、清水の方が作家の気質が強いので反対したり。でもその一方で、清水の方がプロデュース的な部分を担っていたり。バランスがいいんです。

清水 例えば、レナが「マリースーツ」を着るというのは、僕の中ではまったくなかったんです。でも、下口や周りの人が勧めるのもあって、マーチャンダイズだけじゃなく、やっぱり作品的にもその方がいいなと考え直して、結局採用することになりました。

下口 レナという存在が浮いてしまうともったいないと思っていたんですが、「マリースーツ」を着てウルトラマンとして行動するとなれば、話の中心にも入れるし、あと「マリー」はゲーム発のスーツですが、デザインもいいし、漫画にも出しておいた方がいいなと。

大岡 マーチャンダイズ的にというのは、別にいやらしいのとは違って、そこもちゃんと考えなきゃいけないと思う。そこと作家性を馴染ませるのが力量だからね。でも、二人はうまく補完し合っているんだね。

下口 補完をしているのですが、仕事では僕より清水の方がストレスが溜まっているでしょうね。

清水 俺のストレスは8割下口だから!(笑)

大岡 下口さんも毎回、単行本の著者近況でイジられて大変だよね。でも、二人の関係性はすごくいいと思うよ(笑)。

 

円谷作品へのオマージュ

 

▲遠藤と倉田がブリス星人を待つシーン。『ULTRAMAN』コミックス3巻より。

大岡 『ULTRAMAN』には円谷プロ作品のオマージュが結構入っているよね。

清水 いろんな作品に対してオマージュを捧げたり、アイデアを借りたりしてますね。特に僕は『怪奇大作戦』が大好きなのですが、他にも好きな作品がたくさんあって、「ファイヤーマン」も「ミラーマン」も「ジャンボーグナイン」も、出せるなら全部出したいと思ってます。実は作品の中でもいろいろなオマージュを取り入れてるんですが、意外に反応がなかったりするんです。

下口 遠藤と倉田が、メトロン星人が元になっている異星人(ブリス星人)を張り込みで待つシーンがあるんですが、あの部屋は『ウルトラセブン』のモロボシ・ダンとメトロン星人がちゃぶ台を挟んで話したシーンの部屋と全く同じにしています。

大岡 へえー。気づかなかった。

▲『怪獣絵物語ウルトラマン』(Amazonより)

清水 最近だと、メフィラス星人の配下は全員──部下だと思っていたエドも含め──オリジナルシリーズの要素に加え、金城哲夫さんが書いた『怪獣絵物語ウルトラマン』の要素もお借りして描いたのですが、誰も気づいてくれない(笑)。

下口 でも、ベムラーという名前で引っかかってくれてた人は多かったので嬉しかったですね。最初の敵というのはもちろん、「ウルトラマン」の企画段階での名前だってすぐに気づいたファンもいて。他にもいろいろ散りばめられているので、探すと楽しいかもしれませんよ。「牧史郎」とかは思いっきりやってますけど。

大岡 あれは誰でも気づくよ。岸田森さんにそっくりだもの。

▲『ULTRAMAN』コミックス14巻より。

下口 ちょっと外したつもりだったんですが、周りからは「ほぼ似顔絵じゃない?」って言われてしまいました(笑)。

清水 ちなみに『怪奇大作戦』の「SRI」(科学捜査研究所)の名前を直接出すのはNGだって言われて。だから、作中ではあくまでも民間の「科学捜査機関」としか言っていないんです。でも、それを英語のイニシャルにすると結局「SRI(Science Research Institute)」になってしまうという(笑)。

大岡 それはもう確信犯だよね。わかっているファンはくすぐられて、楽しんでるよね。これからどうなるかなと。

清水 でも、そうすることで『怪奇大作戦』にも興味を持ってもらえるとうれしいなと思いますね。

下口 実際に『ULTRAMAN』を知ってもらって、そこからオリジナルの『ウルトラマン』を観た人もいるそうですからね。こうやって作品が広がってくれたらうれしいですね。

 

監修の立場として……

 

▲1968年に放送されたテレビ番組『マイティジャック』。全13話の放送終了後、『戦え! マイティジャック』とタイトル変更し、新たに全26話分が放送された。

大岡 僕は円谷プロの「監修」って立場で途中まで漫画のネームを見てたんだけど、なかなか読み取れないのよ。映像の絵コンテとも違うし。だから、完成した漫画を見た時に「なるほどこういう絵なのか」と後でわかることもある。コマの飛ばし方も漫画特有だよね。

下口 そうですね。一番気をつかうところです。ただ、バトルシーンはネームの前に清水が映像作品のように絵コンテを切ってるんですよ。細かい指示も書き込んであって、それを僕がどう漫画に落とし込むかという作業をしてますね。

大岡 それは二人の頭の中のキャッチボールで第三者は入れない世界なんだろうな。

下口 一番大変で、一番楽しい作業ではあるんですが。

清水 監修という立場かわかりませんが、大岡さんにちょっとお願いがあって。

大岡 何?

清水 『マイティジャック』を『ULTRAMAN』に出したいのですが……。

大岡 そこは違いすぎるからダメ(笑)。でも、スピンオフで、サイドストーリーをこじつけてマイティ号を出すというのはありかもしれないけどね(笑)。

清水 マイティ号は真面目に出そうと思ったことがあるんですよ、本当に。

大岡 まあ、僕が何か言える立場ではないんだけど、ほら、今『ウルトラマントリガー』で空を飛ぶ基地が出てくるじゃない、「ナースデッセイ号」。それと似ちゃうよ? いずれにせよ、出すときはちゃんと円谷プロのチェックを受けてください(笑)。

清水 そうさせていただきます(笑)。

 

アニメ2期は面白いです!

 

大岡 『ULTRAMAN』がNetflixでアニメ化されて、世界各地からの反響もあったんじゃない?

清水 変わったことは特にないですね。僕は本当に家で黙々と仕事をしていて、エゴサーチもしないのでダイレクトに感じることは少ないですね。

下口 でもTwitterとかで海外からの感想が増えたのはありますね。

清水 それがNetflixで配信されたからなのか漫画の海外版の影響なのかは判断がつかないですが、海外からのお仕事をいただけるようになったのはアニメの影響があるのかもしれないです。

大岡 アニメのシーズン2はどうなの? 今進んでるみたいだけど。

清水 面白いですね。シナリオを読ませてもらって、完成した映像を早く観たいなと思うくらいです。シーズン1の時はありがたいことにある程度原作に忠実にやっていただいたんですが、シーズン2はオリジナル要素が入ってきていて、そういう意味でも客観的に楽しめました。「タロウがすごくカッコいい」とか「ジャックもカッコいい」とか。僕は当初、タロウに「ウルトラマンスーツ」を着せるのを躊躇していたのですが、アニメでスーツを着ているタロウが動いているのを観たとき「ああ、着せてよかったな」と思えたくらいカッコよかった。シーズン2はかなり楽しみです。もちろん、主軸となるのは原作にもあるエピソードなので原作ファンも楽しめると思います。シチュエーションが少し違っていたり新しい異星人が増えていたりして、その辺りの新たな要素も楽しめると思います。

下口 シーズン2はシーズン1の時より変わった部分が多いので、なおさら客観的に観られました。「ULTRAMAN」が6人並ぶシーンも壮観ですし、僕も完成が楽しみですね。

 

清水・下口先生から大岡さんへ

 

清水 今日もたくさんお話をさせていただきましたが、本当に『ULTRAMAN』がここまで自分たちの描きたいように描けているのは、間違いなく大岡さんの懐の大きさゆえだと思っています。感謝しかないです。こうやって普通に話していただけるだけでも僕らとしては本当に嬉しいことなので、この関係を続けていけたらと思っています。これからもぜひ甘えさせてください。

大岡 もう甘える懐はないよ(笑)。

下口 以前、大岡さんに原画をお贈りした時に、額の裏に「大岡パパへ」と書いた覚えがあるんですが、それくらい大きい存在なんです。『ULTRAMAN』を描かせていただく上で。第二のお父さんです。引き続きいい関係で、体をお大事に。今後ともよろしくお願いします。

大岡 原画は玄関に飾ってあります。「大岡パパへ」って書いてあったかな。裏はあまり見ないからね。こんな大きな男二人の「パパ」とは気恥ずかしいけど……。でも才能は本当に豊かだから、こんな時代だからこそ、これからますます良質なエンタメが求められるので、いい作品をどんどん描き続けてもらいたいなあと。読者の期待以上のものを描いていただきたいですね。大岡パパより(笑)。

清水・下口 光栄です。本日はありがとうございました!

 

 

 

取材・文/山科清春

 

 

 

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